会員フォーラム
(会員の意見や提言を掲載します。2〜3ページ以内。幹事への申し込みの新しい順に掲載します。)

日本のアジア太平洋自由化構想を発信せよ
山澤逸平
    日本のTPP交渉参加への道筋は、野田首相が決断し、ホノルルAPECで参加表明したことで一応つけられた。TPP交渉参加の是非論で、「米国に引きずられての参加」と批判されたが、野田首相はホノルル会議からの帰国時に日本はアジア太平洋の自由化へ主導権を取ると言明した。中国が入らないTPPと米国が入らないASEANプラスをどのように繋げてゆくのか。国内外に日本の戦略を明言すべきではないか。私は中国、米国の双方が参加しているAPECをつなぎ役として活用すべきであり、それには昨年横浜APECを主催した成果が役立つと思う。
    TPP,ASEANプラス、日中韓の動きには競争的自由化(FTA結成の動きが他国の参加を促し、ないしは他のFTA結成を誘う)の力学が働いている。野田総理はこれらを並行して進めてゆくつもりのようである。横浜APECビジョンではそれらをFTAAPへの道筋として位置付けている。しかしアジア太平洋地域では先進エコノミーと発展途上エコノミーの間で、貿易投資自由化受け入れ態様も異なり、各エコノミー内での関心分野への執着も錯綜しており、容易にFTAAPへ収斂できるとは思えない。収斂する方向へ導く努力が不可欠である。私はAPECがその収斂の枠組みとなりうるし、日本が音頭取りを表明すべきだと提案したい。
    昨年の横浜APECでは個別自由化・円滑化のボゴール目標達成の中間評価を発表した。過去15年間APECエコノミーは高度成長を達成して世界経済を牽引したが、それには自由化円滑化のボゴール目標が役立ってきたこと述べたうえで、なお関税、非関税障壁、サービス、投資、知財権、政府調達の6分野でなお障壁を残していることを指摘し、ボゴール目標の残りの10年で、なお撤廃努力を続ける必要があると指摘した。ホノルル閣僚声明の冒頭に、21エコノミー全部が2020年に向けて残存障壁を撤廃する「新IAPピア・レビュー・プロセス」の実施を指示している。APECは自発的で非拘束の原則を維持すべきだが、ピアレビューの実効を高めて2020年までに残存障壁を撤廃し、国内規制や次世代貿易投資措置にも取り組んで、ボゴール目標を達成しなければならない。発展途上エコノミーも揃って達成するには各種の能力構築が不可欠だが、APECはそのための技術協力プロジェクトを積み重ねてきた。APEC自体がFTAAP達成の基盤になるのである。TPPとASEAN+はアジア太平洋を上から引っ張るが、APECはそれを下から底上げするのである。
    またAPECは米国も中国も参加しているので、TPPとASEANプラスのつなぎ役になる。日本はこれまで積み上げてきたAPECでのイニシャティブを最大活用して、アジア太平洋の自由化の推進の中心にならなければならない。(日本国際フォーラム『百家争鳴』2011年11月29日掲載)

 
APEC研究センター・コンソーシアムカンファレンスの開催(米国サンフランシスコにて)
石戸光 2011年9月23日
 2011年9月22日と23日の2日間、米国サンフランシスコのHyatt Regency HotelにおいてAPEC研究センター・コンソーシアムカンファレンス(APEC Study Centers Consortium Conference:ASCC) が開催された(他のAPEC公式諸会合も同ホテル内の随所で開かれていた)。一時は米国の財政難のために開催の危ぶまれたカンファレンスであったが、予算措置が最終的になされ、Prof.Vinod K. Aggarwal (米国カリフォルニア大学バークレー校)およびProf.Richard E.Feinberg(米国カリフォルニア大学サンディエゴ校)の共同議長による開催となった。カンファレンスには常時40名から50名ほどの参加者が出席しており、盛況であった。昨年のAPEC研究センター・コンソーシアムカンファレンスを主催した日本貿易振興機構アジア経済研究所からも研究者らが3名参加のほか、ASCJからは山澤逸平氏、岡本由美子氏、筆者の石戸が参加し、それぞれの専門分野から研究報告等を行った。
 カンファレンスでは、8つのパネルの下で活発な討議が行われた。パネルのタイトルは、プログラム順に1.Sustainable Growth in East and Southeast Asia, 2.Multilateral Institutions and Sustainable Growth, 3.Regulatory Efficiency, 4.Economic Integration in Asia and Latin America, 5.APEC and the Trans-Pacific Partnership, 6.Trade and Economic Integration, 7.Regional Trade Institutions, 8.Issues in APEC Integrationであった。それぞれのパネルでの議論は多岐に亘ったが、どれも2011年APECの大きな3つのテーマ、すなわち1.経済統合(economic integration)、2.グリーン成長(green growth)、3.規制の収れん(regulatory convergence)を踏まえた内容であり、例年通り、報告を基にした具体的な政策提言をAPEC研究センターからの公式提言として高級実務者会合に正式に報告・提出されることとなった。提言内容は、概略以下の通りと口頭で統括された。(公式の提言文書については、いずれ主催者側より公表されると思われる。)
 
・TPP, ASEAN+6、その他FTAなどの”外交的なイノベーション”(diplomatic innovation)が盛んであり、これを良いこととしたいが、APECが周縁化(marginalize)されないことを望む。
・2011年のAPECの3つの柱(@経済統合、Aグリーン成長、B規制の収斂)についての重要性を評価したい。
・@の「経済統合」については、条件が整えばこの動向は自由貿易のbuilding blockとなり得ると認識している。
・Aの「グリーン成長」については、ASCCはこの概念を支持し、特に経済技術協力の一環として政府調達面や途上エコノミーの中小企業支援の必要性、グリーン保護主義を回避すべきことに留意する。
・Bの「規制の収斂」については、その度合いの評価手法によって結果が異なることに留意し、同時にAPEC内におけるコーディネーションで収斂が実際に進捗することに期待したい。また併せてロシアが2012年のうちにWTOに加盟することを期待したい。
 
 今回のカンファレンスにはAPECの初代事務局長Muhamad Noor Yacob氏、米国のAPEC担当大使(高級実務者SOM)のKurt Tong氏をはじめとしたAPEC関係の要人およびビジネス関係者も基調講演者等として招かれており、APECならではの産学官の相互交流ぶりを多少なりとも感じることができた。山澤逸平氏よりTong大使への質問「米国抜きのASEAN+6と中国抜きのTPPを、米中を含むAPECがコーディネートする可能性は?」に対して、Tong大使は”We don’t have any choice.”(米国にとっては選択の余地なくTPPしかない)と発言しながらも、2010年のAPEC横浜宣言の通り、ASEAN+6とTPPの双方とも重要(”Both are useful”)であり、いずれにせよ米国がAPECを重視していることが明言された。同大使は現在交渉中のTPPの詳細には立ち入らなかったものの、交渉中の9カ国でかなりambitiousな内容の新たなTPPを取りまとめ中であり、今年の11月までには大筋(broad outline)を決定する見通しであると言及した。また今年以降のAPECにおいて、スマートグリッドや電気自動車をはじめとした新興技術(emerging technologies)関連の取り組みをより重視していくことも同大使より言及された。
 APECの政策サポートユニット(Policy Support Unit:PSU)のダイレクターDenis Hew氏からもPSUの現状報告があり、現在手がけている調査研究プロジェクトについて紹介された。具体的には、Trade Facilitation Action Plan II(TFAPII)、Ease of doing business(ビジネス関連の取引コストを2011年までに5%、2015年までに25%削減する計画)、Supply chain connectivity(2015年までに10%ビジネス上のコネクティビティーを向上される目標とのこと)、ボゴール目標達成のための新たな個別行動計画(Individual Action Plan: IAP)などに関連した調査研究や、 APECに関する諸統計を取りまとめたサイト(StatsAPECで検索可)の紹介もされた。またPSUとAPEC研究センターの間に研究面での交流の可能性が大いにあり得る点が示された。
 他の面では、昨年に続いてロシアからの研究者の参加(今年は2名に増)もあり、活発に報告や質疑応答に参加していた様子から、来年のロシアのAPEC議長年に向けた意気込みをうかがい知ることができた。ロシアのWTOへの加盟交渉も大詰めの段階で2011年末までに加盟の可能性があることにも言及された(ロシアはTPPへの参加すらあり得る、との発言もロシアの研究者からあったが、これは会を盛り上げるためのリップサービスであったろう)。来年のコンソーシアムカンファレンスはおそらく貿易担当大臣会合(通常は夏期)に合わせて開催される予定で、皆さんぜひ参加を、との呼びかけもロシア側からあった。
 また今年のカンファレンスには、APECエコノミーではないが、コロンビアとブラジルからも参加があり、APECに対する関心の高さも感じられた。
議長エコノミーで毎年開かれるAPEC研究センター・コンソーシアムカンファレンスでは、研究報告の機会のほかにアジア太平洋地域からの様々な立場の研究者・政府関係者らとの交流の機会が得られ、有益である。来年のロシア、そして2013年のインドネシアにおいても日本からの研究者の参加と貢献が期待される。
 
 末筆ながら、今回のカンファレンスを節目に、ASCJの幹事が山澤逸平氏より石戸に(予定通り)交代したことも合わせて報告させていただきたい。

2011APEC研究センター・コンソーシアムカンファレンスへの出席報告として投稿)

 
 
 
清水幹治氏(APEC事務局ダイレクター)との面談
石戸光 2011年7月
 河本雄氏に替わって今月新たにAPEC事務局へ着任の清水幹治氏(経済産業省よりご出向)と、APEC事務局において面談を行い、APECに関する意見交換をさせていただいた。同氏のこれまでのご経歴が内政(社会保障と税の一体改革など)から外交(WTOの紛争解決関連、東アジア・ASEAN経済研究センターERIAの設立など)まで実に幅広く、議論は多岐に亘ったが、冒頭で「APECは自発性に基づく政策形成に特徴を持つが、この特徴は、新たな分野の合意形成には特に有効ではないか、例えば、イノベーションなどの新分野についても、APECの特徴がどのように活かされ得るか、しっかり考えていきたい」との発言をいただいた。
 私(石戸)の関心事として「APECをめぐる政策形成が1993年の米国議長年以降、貿易投資の自由化・円滑化を中心になされ、APECの名称にある協力の面がやや薄らいでいるのではないか。特に世界経済の停滞懸念が高まり、日本も大地震に見舞われた現況では、APECはその名にふさわしく、競争原理重視よりも共同体重視での対話と具体的協力案件が主軸となるべきでは。それが結果的にはAPECにおける貿易自由化という手段による効率性の高まりにも通じるのでは。」という旨をお話ししたところ、大変興味を示していただき、同氏の米国ロースクール留学時の見聞として「サンクションが伴う法的規制(ハード・ロー)よりも対話重視(ソフト・ロー)が奏功するケースが経済法の分野で多く存在する」という最新の研究成果をご紹介いただいた。この点は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐってのAPECの果たすべきincubator以上の役割(たとえばAPEC全体においてEUのような“regional cohesion fund”を設立し、域内比較劣位部門の構造改革に共同体として関与していくなど)についても示唆に富むように私(石戸)には思われた。これに対しては、そのようなアイディアのフィージビリティーは別の問題としても、「協力という語を先進エコノミーをもその対象として含む、より広い概念として位置づけていく必要があるかもしれない」とのコメントをいただいた。
 また2012年のAPECロシア議長年についても意見交換を行い、昨年日本のジェトロ本部において行われたAPEC研究センター・コンソーシアムカンファレンスでロシアからの研究者による初の研究報告の際に、研究よりも2012年に向けた準備状況の報告に多くの時間が割かれていたように、「具体的な成果以上にロシアのAPECへの積極的なコミット自体に意味がある」という点を巡って賛否両論の議論を行った。なお2011年(米国議長年)のAPEC関連情報については、同氏のお立場から可能な限りでご提供いただく旨のお話をいただいた。
 最後に専任の事務局長を持つに至ったAPEC事務局がそれにふさわしい活動を行っていくことの重要性についても意見交換を行った。この一環でぜひAPECのポリシー・サポート・ユニットの果たす役割がより活性化され、我々APEC研究センタージャパンとも研究活動上の接点が出てくることも期待したいものである。
(サバティカルにてシンガポールに滞在中の投稿)
 

外務省APEC室の『APEC政策評価』で、第三者所見を求められて寄稿(2011年5月末)
第三者の所見(学識経験を有する者の知見の活用) 
山澤逸平(一橋大学名誉教授)
@ APEC横浜会議の成果・意義 APECは昨年で21年目、特に1994年のボゴール宣言を翌年の大阪行動指針に基づいて実現努力を続けてきた。昨年はその中間評価の年で、開催国日本はそれを中心になって果たした。さらにグローバル化の進展に対応して広げてきたさまざまな太平洋地域協力活動を、包摂的・持続可能・安全等の5つの範疇に改組して、APEC成長戦略として共同推進する首脳宣言を打ち上げた。アジア危機以降地道路線にシフトして、東アジア共同体構想等に押されがちだったのが、なお健在な地域協力機構として打ち出した意義は大きい。開催国のイニシャティブと十全の準備活動で他メンバーの期待に応えた。
A 今後の活動方向 APECは日本が発足当/*初からイニシャティブをとり、育ててきた地域協力組織。WTO交渉が難航している中、ボゴール目標の完全達成に向けて開かれた貿易投資自由化円滑化の継続推進は非常に重要。かつ日本が纏め上げたAPEC成長戦略の諸活動も、率先して実施に取り組んでほしい。
B APECの広報 横浜での開催ゆえ、メディア報道も例年になく盛り上がり、一般へも情報・知識が浸透したと思う。ただ管総理のTPP交渉参加表明が国内政治問題化したため、メディア報道が偏り、ボゴール目標の中期評価や成長戦略の意義が広く共有されなかった感があるのは残念。これは財・学も官に協力して強化する必要がある。
 

 
APEC事務局の活動内容について
石戸光  2011年5月
 
 
   (写真:APEC事務局)
 
   筆者は現在サバティカルにてAPEC事務局の所在するシンガポールに滞在し、アジア・太平洋の経済統合の現況の諸側面について調査研究を行っている。APEC事務局においては、21のメンバーエコノミーの官庁から派遣された公務員と現地採用の合計50名ほどが事務局スタッフとしてAPECのすべての活動(首脳会議など政治レベルの会議準備や、貿易円滑化のためのキャパシティービルディングセミナーの開催などの個々のAPECプロジェクトレベルの事務作業)を手分けして行っている。(ちなみに全エコノミーのAPEC研究センターとの連絡を適宜行うスタッフもいるが、いくつか抱える担当業務の1つとしてである。)
  筆者は日本政府から派遣のAPEC事務局スタッフとの意見交換のために何度かAPEC事務局を訪問した。APEC事務局はシンガポール国立大学キャンパス内の高台に位置しているが(外観は上の写真の通り)、雰囲気としてAPEC事務局内は非常に静かで、筆者がかつて勤務したことのあるニューヨークの国連本部ビル内のような、活動内容の現況を示すポスターや関連の展示物などは特に見当たらない。スタッフがひたすら事務作業に専心している感がある。そのためAPEC事務局の活動内容全体については、APECのサイト(
http://www.apec.org/)での方が事務局訪問よりもよく確認できる。それはともかく、事務局では、APEC研究センター担当者(ペルーから派遣のスタッフ)も紹介していただき、日本のAPEC研究センターの今後の活発化には大いに関心を示していただいた。
  APEC事務局には、自前の調査部局としてポリシー・サポート・ユニット(PSU, サイトは
http://www.apec.org/en/About-Us/Policy-Support-Unit.aspx)が2008年に新設された。サイトで紹介されている通り、APECにおいて質の高い意思決定を行うための調査分析を行う一部門である。PSUの物理的な所在地はAPEC事務局建物の右隣の白い建物内であり、そこは数年前までシンガポール国立大学のビジネススクールが入居していた建物であるが、現在はAPECのPSU、太平洋経済協力会議(PECC)およびいくつかの国際的な団体がオフィスを構えている。建物が別棟という意味でPSUはAPEC事務局本体とは別ものの感じがするが、組織上はたしかにAPEC事務局の一部である。2010年7月のAPEC日本プロセスにおいては、ジェトロ本部にて開催されたAPEC研究センターコンソーシアムカンファレンスにPSUのスタッフが初めて参加し、今後も毎年持たれる同カンファレンスへの参加希望を表明した他、APECのサイトにアップされたStatsAPECというデータベース(貿易データをはじめAPECメンバーの主要経済データを掲載したもので、サイトはhttp://statistics.apec.org/)についてプロモーションを行っていた。PSU自体が外部からの委託調査や共同研究などを行うことが可能か否かについては、APECにおいて正式な意見集約がなされていないために、現在のところPSUは専らAPEC事務局からの調査分析プロジェクトを遂行している(PSUが遂行したプロジェクトのリストはhttp://www.apec.org/en/About-Us/Policy-Support-Unit/PSU-Work.aspxにて閲覧可)。
  2011年5月末現在で遂行中の調査分析プロジェクトには、以下の4つが掲げられていた。(1) APEC voluntary reviews of institutional frameworks and processes for reforms; (2) The Impact of Business Mobility in Reducing Trade Transaction Costs in APEC; (3) The contribution of standards and conformity assessment measures in reducing trade transaction costs in APEC; (4) The Mutual Usefulness between APEC and TPP。これらはすべて2011年のAPECプロセスに何らかの関連性を持つ調査分析プロジェクトである。上述のように現在PSUはAPEC事務局関連の調査分析プロジェクトを請け負うのみであるが、それらのうちいくつかは逆にPSUから外部の研究団体へ外注している。
  ASCJのメンバーが個人として、あるいはグループでAPEC事務局本体あるいはPSUの諸プロジェクトを請け負うことは可能であり(それらの公募入札案件の紹介サイトは
http://www.apec.org/en/Projects/Tenders-and-RFPs.aspx)、APECとASCJとがプロジェクト遂行その他のチャネルでの関わりを通じてより深い連携関係を持つようになることが期待される。
(サバティカルにてシンガポールに滞在中の投稿)

  

日本の復興と通商戦略:通商戦略の停滞は復興にマイナス 
馬田啓一 2011年5月
  日本の通商戦略は新たな試練に直面している。未曾有の東日本大震災により甚大な被害を受けた日本にとって、いま最大の課題は経済復興である。日本がこの苦難を乗り越え、経済復興を遂げるためには、貿易の拡大が不可欠だ。経済復興という観点も踏まえ、日本は通商戦略を展開すべきである。
大震災によって、日本企業の国内拠点を含むグローバルなサプライチェーン(供給体制)が寸断されてしまった。日本は、サプライチェーンの構築を図るとともに、他国に劣後しないビジネス環境を整備することを基本とした通商戦略を推進していく必要がある。
  環太平洋経済連携協定(TPP)への参加と世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の年内妥結は、大震災後も依然として日本の重要な通商課題だ。とくにTPP参加への取り組みは、日本の通商戦略にとり試金石といえる。政府が被災地に十分配慮した農業改革と規制緩和策の基本方針をまとめ、TPP交渉への参加を打ち出すことができれば、WTO交渉への対応はもちろん、日本の貿易額上位の米国、中国、EUを含む自由貿易協定(FTA)締結の可能性が高まるからだ。TPPに刺激され、ASEANプラス6 の広域FTA交渉が本格化し、日本とEUとのFTA締結も加速するだろう。
  しかし、今年6月までに政府の判断を下すとしていたTPP交渉への参加問題は、大震災の影響で検討作業が中断されたままだ。TPPのバスに乗り遅れれば、アジア太平洋地域における貿易自由化の恩恵から日本は取り残されてしまう。大震災後の経済復興のためにも、そうした事態は避けたい。政府はTPP参加問題を棚ざらしにしておくべきでない。
(『日本経済新聞』ゼミナール・通商戦略の論点32[最終回]5月27日掲載予定)

 

日本がTPPに参加する3つの理由
山澤逸平 2010年12月
   TPP(環太平洋戦略経済パートナーシップ協定)に参加すべきか否かの議論が盛んである。2つの理由がマスメディアで流布している。いずれも耳に入りやすいが、もっぱら国内向けで、対外的な説得力に欠ける。日本がTPPに参加して、それを引っ張って行くためにも、対外説得力を持った第3の理由が必要である。
  第1の理由は管首相の「第2の開国論」である。日本人・社会が成熟化して、内向きになるのを止めて、積極的に対外進出するきっかけとしてTPPに参加する。TPP参加の障害となる農業保護を変える農業改革を実施しなければならない。その通りだが、実は農業保護を続けても老齢化と後継者難で日本農業は衰退しつつある。農業改革はTPPがなくとも、本来自発的にやらなければならない。事実日本国際フォーラムは2年前にすでに国際競争力をつける農業改革をやらなければならないと麻生首相に提言したが、取り上げられなかった。農業以外でも、雇用慣習の変革等日本の制度・慣習には変えるべきものが多々あるが、それらを自発的に変える気運が弱いのは残念である。
  第2の理由は「TPPに参加しないと日本は差別され、グローバル化から置いていかれる」というもので、経団連を代表とするビジネス界が声高に叫んでいる。経産省の試算も「参加しないコスト」を挙げている。これはFTAのドミノ議論ないしは競争的自由化論で、「周りがやるから自分も」と急かされている。さらには参加すれば、未参加国を差別して貿易転換効果をメリットとする。これはベストの政策論とは言えない。
  少子高齢化が進み、成長の活力が減退した日本では、日本企業は国内市場のみでは生きて行けない。海外、特に成長著しい近隣アジア市場に進出して行かざるをえない。そこでも自由で、安定したビジネスが行えるように、シームレスのビジネス環境を整えなければならない。それは日本企業だけでなく、アジア企業にも必要であり、それを近隣諸国に呼びかけて来た。これは東アジア共同体の理念として2006年の通商白書にも掲げられていた。TPPへの参加はそれに?がるものでなければならず、これこそ第3の理由である。現在のTPP論で流布している、中国やASEANの主要国が参加しないFTAであっては意味がない。TPPは太平洋を橋渡しするが、アジアを分断するものであってはならない。(日本国際フォーラム『百家斉放』)

 

Members' Forum

Three reasons why Japan should join the TPP
By Ippei Yamazawa,  December 2010
        The 2010 APEC meeting in Yokohoma ended one month ago but the Japanese media is still discussing whether or not Japan should join the Trans Pacific Partnership (TPP [1]). Prime Minister Kan planned to announce Japan’s accession officially at the leaders’ meeting so as to make it a highlight of APEC 2010 but he had to postpone it until June next year because of strong objections of agricultural protectionists.
        Two arguments in favour of Japan’s joining the TPP have already been made. The first centres on ‘second country opening,’ and the second centres on ‘discrimination’. But both of these reasons appeal to a domestic audience but are not persuasive to Japan’s foreign partners. Japan needs to present a third reason to persuade its Asia Pacific partners why it should join the TPP and lead regional integration efforts in the Asia Pacific.
Turning to the first reason, the ‘second country opening,’ as Prime Minister Kan has explained, as Japan’s economy and society have matured, it has become inward-looking. Japan should join the TPP in order to arrest this process and promote active advancement overseas. To this end, Japan must undertake agricultural reform so as to remove the agricultural protection that is currently impeding its accession to the TPP.
        But in any case, the fact is that the number of Japanese farmers has decreased by 25 per cent over the past decade. Reform that produces a competitive agricultural sector is therefore imperative regardless whether or not Japan joins the TPP. An opinion group, of which I was a member, proposed [2] a program of nurturing competitive farming without protection to then Prime Minister Aso two years ago but no response was forthcoming. Indeed, there is a need to reform Japanese institutions and practices in quite a few areas, but strong political leadership is currently blocked by huge vested interest groups.
        Turning to the second reason, business leaders have argued that Japan will be discriminated against and left behind the globalisation trend if she does not join the TPP. This is the domino theory of FTA or competitive liberalisation which urges you to ‘join as your neighbors do’. Once joined, you can gain from trade diversion by discriminating against non-members.. This justification is shallow – by itself, it cannot provide the best possible policy.
This brings us to the third reason. As made clear by the first reason, Japanese firms cannot survive global competition by targeting a domestic market with an aged population.. It is thus imperative to produce a seamless business environment in which both Japanese and other Asian firms can do free and stable business internationally. This environment is the East Asian community. Joining the TPP should lead eventually to the merging of the Pacific and Asian markets. This is the third, and most compelling, reason for Japan to join the TPP.
The current design of the TPP seems to exclude fast growing Asian economies, which may impede the move toward the Asia Pacific-wide market. As my third reason makes clear, the TPP is trans-Pacific, but it should not divide Asia from the Pacific.
(posted on East Asia Forum, Australian National University, 22 December 2010 )

 

Has APEC Achieved Its Mid-term Bogor Target? – An Assessment of 2010 APEC Yokohama –
Ippei Yamazawa, December 2010
    2010 APEC Yokohama was completed three weeks ago with three major achievements, first the mid-term assessment of its Bogor target, second a concrete direction toward Free trade Area for the Asia-Pacific (FTAAP), and third APEC’s growth strategy. The first two give us a future prospect for APEC’s main activity of Trade Investment Liberalization and Facilitation (TILF), while the last packages its new initiatives undertaken for the past decade in order to combat with changing economic environment in the region. Discussion has so far focused on TPP as a possible route to FTAAP but others seem to be missed since the Yokohama meetings. This short essay aims to discuss both the first agenda and continued TILF of the second.
      APEC SOM reported the assessment of the Mid-term Bogor Goals achievement to Leaders’ Meeting in 2010 (APEC/SOM 2010). It included five industrialized economies designated to achieve the free and open trade by 2010 plus eight economies which volunteered to be assessed this time, namely Chile, Hong Kong, ROK, Malaysia, Mexico, Peru, Singapore, and Chinese Taipei. They were not assessed individually but as a group of five plus eight economies. Leaders summarized their achievement as the 13 economies as follow (APEC/LM 2010b).
- The overall growth in commodity trade for all APEC economies increased by 7.1% annually for 1994-2009, services by 7.0%, and inflow and outflow of FDI by 13.0% and 12.7% respectively.
- The 13 economies reduced their simple average tariffs from 8.2% to 5.4% for 1994-2009, far lower than the world average of 10.4%, as well as further tariff reduction within their FTA framework.
- They opened their services markets through unilateral reform of domestic policy and maintained liberalized investment regime.
- They have also taken significant steps on trade facilitation to streamline customs procedures and align standards and conformance procedures. Under the Trade Facilitation Action Plan (TFAP) they have reduced transaction costs in the region by 5% for 2002-2006 and are achieving an additional 5% under the second TFAP by this year.
      On the other hand, Leaders also noted that impediments still remain in sensitive sectors;
- Higher tariffs in agricultural products and textile and clothing,
- Remaining restrictions in financial, telecommunications, transportation, and audiovisual services, and the movement of people least liberalized,
- Sectoral investment restrictions in the form of prohibitions or capital ceiling and continuing general screening system.
- Non-tariff measures need further efforts
- Further works need to be done in standard and conformance, customs procedures, intellectual property rights, and government procurement,
- Behind-the-border issues need to be addressed by facilitating structural reform.
      Leasers concluded as “It is a fair statement to say that the 2010 economies have some way to go to achieve free and open trade in the region. APEC challenges in pursuing free and open trade and investment continues. APEC will continue to review economies’ progress towards the Bogor Goals of free and open trade and investment. We recognized that all APEC economies must maintain their individual and collective commitment to further liberalize and facilitate trade and investment by reducing or eliminating tariffs, restrictions on trade in services, and restrictions on investment, and promoting improvement in other areas, including non-tariff measures and behind-the-border issues.” (APEC/LM 2010b)
“APEC has achieved much since its inception, evolving to become the pre-eminent economic forum in the Asia-Pacific, the world’s most dynamic and open region. Looking back over the past 15 years, the progress made by APEC in pursuit of the goal of free and open trade and investment has reinforced the fact that full achievement of the Bogor Goals for all economies should continue to provide direction for APEC’s work of trade and investment liberalization and facilitation” (APEC/LM 2010b)
     This is a fair assessment of APEC’s achievement, considering the severe constraints that the WTO/DDA negotiation has got stumbled and the Bogor process has been implemented under non-binding liberalization modality. APEC’s TILF process will continue for all APEC economies, including the 13 economies summarized as above. However, it is not clear from the Leaders’ statements and report how this process will be conducted.
- Will all 21 economies conduct the peer review process of IAP/CAP at SOM?
- Will the 13 economies assessed this time be subject to a new form of review, focusing on their remaining impediments?
- Will all 21 economies be subject to a new review process toward the final target of 2020?
     The past three rounds of the IAP peer review process were criticized occasionally because of its huge works and voluminous documents and ambiguous focus due to its positive list formula. SOM’s assessment report this time is also based on detailed data collection and reports submitted by the 13 economies. This is a good opportunity at the mid-term assessment for reshuffling the IAP review process.

      I proposed earlier how to reshuffle the IAP review process so as to make it more effective in encouraging APEC economies’ liberalization efforts (presented at APEC Tokyo Seminar in December 2009 and included in Yamazawa 2010). I found by my independent quantitative assessment that the thirteen economies differed greatly in their achievement and remaining eight economies have achieved much less  toward the Bogor Goals. They may be treated differently according to their different extent of liberalization and facilitation. What about each of the thirteen economies list up the areas which it perceives insufficiently achieved the Bogor Goals and voluntarily report its continuing efforts every three years? It will become another IAP reporting in negative list formula. On the other hand, it is no use for the remaining eight economies to continue their current IAP reporting as before. They may be better advised to change it to the IAP in negative list formula to be submitted every three years. It will change the IAP process more effective in promoting liberalization and facilitation.
(posted on PECC Forum, December 9, 2010)
 

 

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