会員フォーラム
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APEC首脳会議・閣僚会議(2016年)ご報告

外務省経済局アジア太平洋経済協力(APEC)室長 南 慎二

ペルーが議長を務める2016年のAPEC首脳会議・閣僚会議が開催されました。閣僚会議は1117日及び18日に,首脳会議は1119日及び20日に,それぞれ開催されました。それぞれの会合の概要等は,外務省HPに掲載されておりますので(末尾のURLをご参照ください),そちらをご覧いただければと思いますが,本年の首脳会議・閣僚会議を振り返って,実務を担当する者の立場から一言述べさせていただければと思います。

1.本年の経済関係の国際会議の総仕上げ

 本年は日本はG7議長国であり,5月の伊勢志摩サミットで大きな成果を出すことができました。この伊勢志摩サミットで示された種々の問題意識を,APECの場でも共有し各国・地域が共同して課題に対処していけるようにすることを念頭に,首脳宣言・閣僚声明の作業にあたってきました。

 その結果,経済の下方リスクに対して財政・金融政策,構造改革を総動員して対応していくこと,質の高いインフラ投資推進への取組,経済的反映の基盤となる保健政策(特にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ),女性のエンパワーメント,腐敗対策,エネルギー分野の取組など幅広い分野の内容が盛り込まれるものとなりました。もともとAPECでの議論は貿易・投資を中心とした分野が大半を占めますが,現在の世界経済の情勢に応じて世界の課題に応えるよう,日本としてAPECにおける議論をリードできたと考えています。日本にとっては,本年の経済関係の国際会議の総仕上げでありました。

2.保護主義・自由貿易への懐疑の声への対処

 本年のAPECでも自由貿易を推進し,保護主義と闘っていくことが再確認されましたが,特に本年は高まる保護主義の圧力,とりわけ自由貿易に対する懐疑的な世論に対してAPECとしていかに対処すべきかといった点も議論の焦点になりました。

 この関連でも,首脳宣言・閣僚宣言の文言の中に,自由貿易が恩恵をもたらすものであることについて「社会のあらゆるセクターに働きかける」(首脳宣言),「より効果的に幅広く一般の人々に伝えられる」(閣僚声明)といった内容が盛り込まれています。ここにも日本からのインプットが反映されています。

 また,首脳会議の場でも,安倍総理から,自由貿易に対する国民の持続的な支持を培う方策として,自由貿易の利益を社会に広く拡大させる「包摂的な成長」をもたらす日本の取組(「一億総活躍社会」の実現など)を説明し,これはまさに「成長と分配の好循環」による究極の成長戦略と位置づけられるものであることなど発信していただきました。

3.FTAAP

 FTAAPについては、この2年間行ってきた「FTAAPの実現に関する課題に係る共同の戦略的研究」が本年の主要な成果の一つとなりました。この研究自体は,FTAAPの実現に向けてのこれまでのAPECにおける取組等をまとめた内容ですが,そこから得られた主要なポイントは,APECの各エコノミーの間に残る貿易・投資に関する様々な課題やギャップ,つまり,FTAAPの実現に向けてまだ足りていない部分があるということでした。

 今後の取組として一致した点は,まさに足りていない部分を補うべく能力構築等を行っていくということであり,今後,そのための作業計画を策定し、実施することとなりました。この点は,首脳宣言の附属文書である「FTAAPに関するリマ宣言」において示されています。

4.サービス競争力ロードマップ

 本年のもう一つの主要な成果は「サービス競争力ロードマップ」です。昨年合意された「サービス協力枠組み」において,2016年に作成することが予定されていた文書で,今後のAPECにおけるサービス分野の取組の方向性を示すものです。

2025年を目標年として,サービス市場のアクセス環境の確保,サービス貿易拡大等の目標を掲げるとともに,APEC全体として,また,APECの各エコノミーとしてのあり得べき取組を示したものです。今後さらなる作業の具体化が必要ではありますが,今後の成長の源泉である新しい分野に対応していくという政治的意思を示すものとして大きな意義があると考えます。これも首脳宣言の附属書となっています。

5.デジタル貿易

 首脳宣言では1パラグラフ触れられているだけですが,「デジタル貿易」(電子商取引に関連するルール作り)ついても,今後APECとして今後作業を進めていくことで一致しました。これも,サービス分野同様に今後の成長の源泉である新しい分野に対応していく意思を示すものであると同時に,冒頭申し上げたG7での問題意識(特にサイバー分野の課題への対処)をAPECにうまく引き継げた成果でもあります。

首脳会議(外務省ホームページへ移動)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page3_001883.html

 

閣僚会議(外務省ホームページへ移動)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/apec/page1_000268.html

   

   

   

季刊 『国際貿易と投資』 へ投稿
山澤逸平、2016/10/31

APECは何を成し遂げたか
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日本国際フォーラム『百家争鳴』へ投稿

山澤逸平、2013/10/17

2013インドネシアAPECは何を成し遂げたか

先週インドネシア・バリ島で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は、直前に発表されたオバマ米国大統領の欠席の陰に覆われてしまった。日本の新聞報道ではそうであった。APEC自体が、首脳が集まる機会を利用して開かれるTPP交渉国の首脳会議の背後に霞んで、そこでオバマ大統領がTPPの難交渉を主導して年内妥結に持ち込むことが期待されていた。それが主導役の不参加で求心力を失い、APEC報道の目玉が失われてしまったからである。しかしAPECの首脳会議はオバマ大統領抜きでも開かれ、19年前の故スハルト大統領が打ち上げたボゴール宣言達成を謳い上げ、アジア太平洋地域の更なる経済統合への努力持続を誓ったのである。それには米国主導のTPPとASEAN主導のRCEPを並行推進し、APECはその孵卵器の役割を果たすと言明した。ただメディアも、その読者も、APEC自体の役割について正しく理解していないのではないかと懼れる。それを正して、APECの今後の実行を見守るよう呼びかけたい。

今年のAPEC首脳宣言、閣僚共同声明はどう言っているだろうか。首脳宣言では、冒頭で、活力のあるアジア太平洋地域がボゴール宣言達成に向けて努力したことで世界の成長軸の役割を果たしていると述べ、さらにそれを超えた高次の経済統合FTAAPへ進む決意を繰り返す。そのためには2010年横浜ビジョンで掲げたように、その推進役となる域内のFTAを助けるべく、APECは情報提供、能力構築、政策対話で助けると述べている(首脳宣言、閣僚共同声明ともTPPやRCEPの名称は直接出していない)。閣僚共同声明では実施中のAPECの諸活動をレビューして、2010年中間評価で指摘した「残された分野」に留意して、今後の行動計画としてCTI(貿易投資委員会)年次報告を承認している。CTI報告については報道されなかったが、APECのウェッブサイトから容易にダウンロードできる。CTI報告は2013年中の自由化円滑化活動について報告した上で、CTI傘下の各分野(市場アクセス、サービス、投資、基準認証、知財権、商用移動等)のタスクフォースの現段階を要約したうえで、2014年に向けての行動方針を列挙している。

その第4パラグラフでは6月30日にメダンで開催された「ボゴール目標達成に向けてのワークショップ」で指摘されたIAP(個別行動計画)発表プロセスの改善、PSU(政策支援室)の『点検票』への基準指標の追加、サービス・投資・非関税障壁での努力強化の必要等が指摘され、それらが隔年実施のボゴール目標進捗レビューで来年さらに進められるよう指示している。私は昨年、若い仲間と2012年のIAPを吟味して、全21エコノミーのボゴール目標達成度を測り、2020年に向けて努力を強めるべき分野を指摘した論文を発表した。このCTIワークショップに招かれて発表したが、そこでの提言の多くが受け入れられたことで意を強くしている。

APECは1994年のボゴール宣言の実施で、大阪行動指針に基づいて14分野での自由化円滑化計画に取り組んできた。IAPによる自発的実施方式で、農産物や重工業品等センシティブ分野の自由化などは難しいが、基準認証、税関措置、商用移動、知財権等の分野では、CAP(共同行動計画)での共通制度の新設・普及や能力構築支援等でも貢献して、APECエコノミー間の貿易投資円滑化は着実に進展した。それが冒頭に述べた活力のあるアジア太平洋、世界の成長軸の土台となっている。APECのアジアメンバーを直撃したアジア通貨危機の後で、APECの自由化の遅れに飽き足らないエコノミーが「高水準の自由化」を求める動きが現在のTPP交渉につながっており、それに刺激されたアジア側の動きがASEAN主導のRCEPになっている。それらはAPECとは異なる拘束力を持った協定方式だが、TPPでは多くの円滑化分野を含む。それらの実施にはAPECが参加エコノミー間で築き上げてきた円滑化の土台が役立とう。

TPPの年内妥結は不透明だが、早晩妥結し、それに急かされてRCEPも動きだし、横浜ビジョンの通りにFTAAPへ向けた動きが実現しよう。TPPは自由化円滑化の高いトラック上を、RCEPはそれより低いトラック上を、しかし両方ともAPECが築いた高い自由化円滑化の土台に乗っていよう。そこでわれわれは、TPPとRCEPをFTAAPに収斂させる道を講じる。APECは単に情報提供や政策対話の場を提供するだけではない、アジア太平洋経済共同体の実質的な孵卵器なのである。今年のAPEC首脳宣言はこのように読むべきであり、その意図通りに実行されるよう、来年のIAPが拡充されるか見守ることが、われわれステークホルダーの役割である。

   
   
    
   
2013夏、APEC関連会合参加報告
アジア太平洋の地域統合へAPECを最大活用せよ
一橋大学名誉教授・山澤逸平
  →ワード文書にてダウンロード
   
   
世界経済評論インパクト投稿2012/11/30
APECの推進で日本のアジア経済統合イニシャティブを強めよ
山澤逸平(一橋大学名誉教授)
11月の拡大ASEAN首脳会合で、RCEP交渉が来年早々にも始まる。日中韓FTAも、日中、日韓の領土紛争にもかかわらず交渉を進めることに決まったのは歓迎する。もう一つのTPPへの日本の参加が、野田総理の掛け声ばかりで、国内の反対論に押されて一向に進展しないのは残念。選挙後の方向も不透明である。少子高齢化が進み、若年層の就職難が伝えられる中、日本にとってアジア太平洋地域を地盤に経済を活発化させる以外に道はない。日中韓もRCEPもTPPも並行的に進めるという現在の方針は正しいが、いずれでも日本のイニシャティブが見えていない。ここで私は、すでにアジア太平洋地域の経済統合を地道に推進してきたAPECを最大活用することを訴えたい。
 APECは自発的自由化で非拘束的なので、アジア太平洋でのASEANのサービス自由化協定FTA競争の中でとかく軽視されがちだが、アジア太平洋のすべての国が参加し、毎年会合を続けて、貿易投資の自由化と円滑化を進めてきた。しかも経済技術協力を組み合わせて、自由化に消極的な途上国も引っ張ってきた。日本はAPECの発足から強いイニシャティブを発揮してきた。2010年に日本が横浜でAPEC首脳会議を開催した時にはボゴール目標へ向けての中間評価を実施し、個別行動計画に基づく自由化円滑化(IAPプロセス)を2020年まで続けて、地域大自由化の最終目標を達成しようと約束した。APEC首脳達はその先にアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)を形成すると約束していて、TPPやRCEPもそこへの道筋だと示唆した。APECのIAPプロセスも重要な基盤であることを皆さんに喚起させたい。
私はAPEC研究センターなどの学者・専門家に、各自のIAPを緊密にモニターして、IAPプロセスを完遂させようと呼びかけている。それは後半のストレッチに入った。各国のIAPは依然読みにくい文書だが、従来より圧縮し、しかも事務局に新設した政策支援ユニット(PSU)の各国3ページの要約が付記されて、各国のボゴール目標への進展度が分かる。私は若い学者と組んで、数量評価を行った。その結果は
・基準認証・税関手続き・ビジネス移動等の円滑化分野では多くの国が進展して、ボゴール目標も達成できよう。
・ 関税や投資のような自由化では農業や国営企業等の困難分野で障害が残存している。
・非関税障壁とサービスでは取り組みが不十分で、このままではボゴール目標は達成できそうにない。
これは私たちの評価だが、皆さんもぜひPSUレポートをご一読願いたい。
IAP,PSUレポート、私たちの数量評価はいずれもオンラインで入手できる。APEC研究センターのホームページ参照http://ascj.web.fc2.com/
世界経済評論IMPACT 2012/9/10への投稿
APEC2012ウラジオストック
山澤逸平 一橋大学名誉教授
今週日本海の対岸のウラジオストックでAPEC閣僚会議、首脳会議がひらかれた。本稿の掲載時には首脳宣言も発表されていようが、本日の締め切りで間に合わないので、持ち合わせの情報で私見を書く。
 今年のAPECは新参のロシアが、事前予想に反して、会場のルースキー島への大架橋や空港整備、大学キャンパス新設等力を入れてウラジオストックをショーケースとして盛り上げてくれた。年初からのロシア各地での実務者会合や専門大臣会合も立派に運営した。昨夜発表された閣僚共同声明の目玉として「環境製品54品目の関税を2015年までに5パー-セント以下に引き下げる」ことが合意された。この方向は昨年のホノルル首脳会議で決まっていたが、品目の絞り込みには会議を2時間も延長してようやく合意した。議長のベロウソフ経済発展相のお手柄であろう。日本には輸出機会の拡大になるが、中国は自国産業育成保護で慎重だったらしい。これはWTOのDDA交渉でも合意できなかったものがAPECで合意できた意義は大きい。もちろん環境保護の高まりの中で実現したものだが、1996年の情報技術協定(ITA)に次ぐ快挙である。他にも今年のAPEC優先課題に関連して農産品の輸出規制抑制やエネルギー市場の開放と投資奨励が含まれた。
 しかし米国の大統領選挙でオバマ大統領が欠席し、TPP交渉の妥結も先送りされて、昨年のようなハイライトはない。野田首相も国内政治に足を取られて日露交渉再開の絶好機を逸した。中韓も政権交代期でプーチン大統領の相手が現われない。代わりに今年のAPECは開催国ロシアの発展と将来性をハイライトする機会となろう。それには2つある。ひとつはロシア・ベラルーシ・カザフスタンのユーラシア共同市場の発足であり、もうひとつは先にあげた極東ロシアの開発とアジア太平洋への押し出しである。ロシアは先月WTOへの加盟が認められたが、EUの周辺ではなく、EUとアジア太平洋の中間に位置する大経済・市場として名乗りを上げた。筆者もモスクワでのAPEC専門家会合に招かれた際に、地域経済統合強化の議論で、ロシア側から聞かされたのはもっぱらユーラシア共同市場だった。どうせ私は20年前にはひとつだったのでしょうと言ったら、20年前のことを覚えている人は少ないと言われた。確かにロシアの閣僚・高級官僚はみな若い、30代もいる。(詳細はAPEC研究センター日本、ASCJのホームページのフォーラム拙稿を参照、http://ascj.web.fc2.com/)極東ロシアの開発はもっぱら国家予算で進めてきたが、今後はどれだけ民間の外資を引き付けられるかが成否の鍵となる。
 他方アジアでは、8月最終週にはASEAN+6の経財相会合がカンボジアで開かれて、RCEP交渉の11月開始が決められた。TPP交渉への対抗だが、ASEAN経済共同体の完成と合わせてASEANペースで進むようなので、早急には進むまい。閣僚共同声明の新聞報道には見当たらないがが、APECの新IAPプロセスが今年から始まった。APEC2010横浜の中期評価で、首脳達もアジア太平洋が世界経済の成長を支えたと自由化円滑化のIAPプロセスを称えたが、なお2000年に向けて努力を続行すべきと指示したのを受けたものである。TPPやRCEPは上から引っ張るのに、APECは下から押し上げる。筆者は若い人々と、今年発表されたIAPをモニターし、強化をアドバイスする作業を進めている。次回に報告させていただこう。(1410字)
APEC 2012 優先課題会員フォーラム英語版に掲載
APEC 2012 に関する専門家会合(モスクワ)・報告
山澤逸平 19/4/2012

1.3月中旬モスクワのロシアAPEC研究センター(Russian APEC Study Center, RASC, established since September 2010 in the Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration)から、頭記会合へのの招待を受けて、参加した。APEC2010をロシアが開催する準備に専門家のアドバイスを求めたいとの趣旨。456日モスクワでRASC及び政府担当者との会合およびIgor Shuvalov 第一副首相、Ovechko シニアオフィシャルらとの会合。
2.参加専門家は以下の6
Richard Feinberg, UC San Diego, USA
Peter Petri, Brandeis University, USA
Robert Scollay, Aukland University, New Zealand
Sangkyom Kim, KIEP, ROK
Zhang Jianping, NDRC, China
Ippei Yamazawa, Japan
3. 会議概要
ASCC Kazan 会議へのアドバイス44日(水)
会議に先立って、先着していたSangkyom Kimと二人で、RASCでロジ担当のAlex Shurubrin Irina ShkolyarASCC Kazan会議の開催、及び参加者受け入れに当たってのアドバイス。ASCC会議は基本的に学会方式で、参加者が報告を目的として自費参加する、ことを説明し、報告希望はできるだけすべてを受け入れるよう助言。さらにASCC会議参加者のほとんどにとってKazanは未知で、旅行情報も得にくいこと、同会議まで時間が短く、手際よくビザ申請やフライト予約をしなければならないことを、私自身の今回の経験に基づいて力説し、親切で迅速な手続きを要請。(報告3.1&2参照)

ロシアASCメンバー及び政府担当者との会合45日(木)午前および午後
Academy内会議室
まずPavel Kadochnikov (RASC Executive Director)が本会合の趣旨説明し、今年のAPECの4つのprioritiesについて説明。第1の地域経済統合REIについて、露―ベトナムFTAを相談中、民間投資の重要性、構造改革、APECの長期ゴールへの道筋、非メンバーの参加について述べた後、Andrey Spartak(All Russian Market Research Institute)がロシアとベラルーシ、カザフスタンとの関税同盟結成について説明。いくつかの質疑応答の後、S. KimがSOM1に提出されたロシア案のAPEC地域内FTAの収斂促進についてコメント。山澤はロシアと中国の同年中にAPEC開催とWTO加盟の類似を指摘し、中国の成功に倣ってロシアもWTO加盟時の自由化・規制緩和を貿易・外資導入に役立てるべき、new IAP processの発足の重要性を強調、さらにロシアプロジェクトとして北東アジア開発協力の促進を提言した。
 第2food securityについてはMikhail Savostianov (RASC, food security 担当)が説明。2010年新潟の農水大臣会合のフォローアップとして紹介し、日本の農水省スタッフがモスクワに来て、情報交換と農業投資振興なら支持するとロシア提案に詳細なコメントをしてくれたと紹介。PRAI(Principle Responsible for Agricultural Investment) を提唱し、food supply chainにも言及。NZのScollay が細部について質し、時間外に農水省まで足を運んでアドバイスしてきた模様。第3,4のpriorityについては議論が及ばなかった。
Igor Shuvalov 第一副首相との会合46日(金)12:00-13:30 
Government House
45歳と若い。国有財産管理・知財権・建設通信・国営企業担当に金融経済発展政策担当も。APEC2012に向けて、Vladivostokをオリンピックのソチに次いで大建設地点にすることに成功。
Kadochnikovが専門家を紹介した後で、各自57分づつ意見表明。私はAPEC開催とWTO加盟との関連活用とREIのためにAPECの積極活用を提言(私の報告1.1&2 参照)。他の専門家からはアアジア太平洋でのREIの調和的推進やロシアの積極的参加歓迎。Zhangは中日韓FTAへの露の参加を示唆。
1副首相(通訳付き)はREIとしてまず旧ソ連メンバーとの関税同盟、EUとの協定締結について述べ、中・印・日・韓とも連携を強化したいと述べた。ロシアのWTO加盟をAPEC首脳会議前に実現したい。
終了後Ovechkoが私に近づいて、私のAPECの積極活用を参考にしたいと言ってくれた。
4.報告書の提出
求められていた報告書(A4,font 12, 5ページ指定)には、上記会合での私の発言に基づいて文章化し、提出済み。
私はこのほかに46日午後、上記Academyの学生40名ほどにAPECについての講義。

TPPとアジア:日本、自由化推進の中心に
山澤逸平
TPP参加交渉が始まっている。米国等厳しい要求をしていると伝えられるが、基本的に既参加の9か国は日本の参加を歓迎している。むしろ国内の反対が激しい。米国主導の農業自由化を押し付けられることへ必死で抵抗する、150年前の黒船襲来に対する鎖国攘夷論を思わせる。60年前敗戦からの日本経済再生時にも、国土開発論の主張を押し切って貿易開放政策を選び、高度成長を実現した。グローバル化が進む世界で開放・改革以外に生き延びる道はない。
ここで強調したいのは、単にTPPに入れてもらうのでなく、日本自体の構想を発信し、アジア太平洋自由化推進の主導力となれということである。もともとアジア太平洋地域ではアジア太平洋経済協力フォーラム(APEC)が中心となって貿易投資の自由化を推進し、日本はその中心となってきた。東アジアの奇跡的成長やそれに続く中国、ベトナムの高度成長は開放・改革戦略で実現し、日本はそれを支えてきた。今日アジア太平洋地域は世界の成長軸になっているが、日本はこれに積極的に参加し続ける以外に道はない。TPPはAPECの一部メンバーが自由化を一段と牽引するものだし、日本は本来そのメンバーだった。
アジア諸国は米国や豪州ほどには貿易自由化の準備ができていない。しかしASEANメンバーはすでに域内の関税撤廃を達成し、2015年までにサービス・投資・円滑化措置まで広げた経済共同体を実現する予定である。そして日本・中国・韓国・豪州・ニュージーランド・インドのそれぞれとの自由貿易協定を発効済みである。TPP交渉の動きに刺激されてこれら6か国に呼びかけてアジア中心の大自由貿易圏結成を図っている。ASEANメンバーの中でもシンガポール・マレーシア・ブルネイ・ベトナムはすでにTPP交渉にも参加している。日中韓3国も自由貿易協定締結を話し合ってきたが、今は中国が最も熱心になっている。韓国は米国ともEUとも自由貿易協定を締結済みである。競争的自由化の力学が働いている。
野田総理はホノルルAPECからの帰国時に、日本はアジア太平洋の自由化へ主導権を取ると言明した。中国が入らないTPPと米国が入らないアジア中心の自由貿易圏をどのように繋げてゆくのか。国内外に日本の戦略を明言すべきではないか。私は中国、米国の双方が参加しているAPECを繋ぎ役として活用すべきであり、それには一昨年横浜APECを主催した成果が役立つ。それでこそ経済力に見合った責任が果たせるのではないか。
(朝日新聞オピニオン欄 AAN朝日アジアフェローから 2012年2月25日掲載)

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